Baobabu nursery school

東京都多摩市の保育園の新築計画である。 1973年に開園したバオバブ保育園は、創設以降約50年のあいだ、自分たちの保育にあった空間にカスタマイズしようと、増改築を繰り返していた。2017年、老朽化による建替計画が持ちあがり基本構想がスタートした。

クライアントの要望は、培われた保育の風景を新しい園舎に継承していきたいというものだった。 私たちはまず、複雑になっていた既存建物の構成を紐解くとともに、保育や行事に参加し、園舎の使われ方を観察するところからスタートした。 裸足で屋上斜面をすべる、カシの木まわりでどんぐり工作、アルコーブのひだまりに群がる、手づくりり遊具の窓越しに繰り広げられるままごと、柵の向こうへ乗り越えようとする確信犯、思慮深い顔をして園庭の片隅でひとりでたたずむ、テラスに出ると泣き止む、つきたてのお餅を窓際でちぎる、卒園式で飾られた等身大の子どもの絵・・・ 観察を続けると、このようなたくさんの風景は、その空間性に紐づいているようだった。例えば屋外と室内を相互に使いながら、保育や行事(さんまの会、餅つきなど)を行うことが多いのだが、窓、テラス、窓際のアルコーブや家具で仕切られたコーナーの設えによって多様な保育風景が展開されているのもそのひとつである。 既存園舎の空間要素と独特で多様な保育風景の重なりは、園では当たり前の風景となっていたが、なるべく客観的な目線によって場所の特徴やアクティビティなどを記録した。

さらに、解像度を高めるべく、保育士や職員、既存園舎の設計者とワークショップやヒアリングも重ねた。 このような既存園舎やエピソードから保育風景を集める作業は、名付けるなら「風景採集」ともいうべきだろうか。 新しい園舎計画は、この採集した風景を再編集するようだった。保育オペレーションや施工手順により決定したゾーニング計画に、再編集した風景のレイヤーを重ねることで、バオバブ保育園の積み重なる歴史の色を乗せていった。

既存園舎にあるものを活かし、そこで育まれた風景を継承する設計は、古いものを壊して新しい環境をつくるという建築行為ではなく、あるものをどう受け止め、保育がそこに日々存在する環境をどう持続させるかという検討と葛藤の連続であり、私たちにとって、この感覚がとても新鮮であった。

また工事を二期に分け、完成した建物の一部を仮使用しながら、工事と保育を並走させたせいか、古い園舎と新しい園舎という感覚ではなく、園庭に増築した環境を使い始めるような感覚で、日常の保育の風景がシームレスに連続した。 保育空間のカスタマイズは、保育に合わせてこれからも続いていくであろう。

用途:保育所
所在地:東京都多摩市 
竣工:2021年 
主要構造:RC造

撮影:鳥村鋼一

*オンデザインパートナーズでの担当